ディーゼルとハイブリッド

ディーゼルエンジンに対するユーザーイメージはアメリカ合州国でも同じようで、それを変えていく為に下記のような提案がなされている。

 率直に言えば、ユーザーが持っているディーゼル車に対する悪いイメージのほうが、排ガス問題よりも大きく思える。

 そこで最も魅力的な最終案に思えるのがディーゼルハイブリッドエンジンだ。ディーゼルと電気モーターを組み合わせれば「代替」エンジンはもっと良いものになる。ディーゼル車は電気自動車よりも小型かつ軽量でありながら、最適なRPMレンジを超えても力強いトルクを維持できる。

 ディーゼルハイブリッドこそが、ほぼすべての運転シナリオにおいて極めて力強い走りを実現し、燃費の点でも優れた自動車だ。Robert Boschの会長Hermann Scholl氏は、2010年までには米国でディーゼルハイブリッド車が登場すると予測している。

 悪臭や騒音がしてパワーに欠けたディーゼル車はもう過去のものだ。今日のディーゼル車は、同性能のガソリン車よりも約45%燃費が向上し、実世界のドライブを楽しむために十分なトルクを実現できる。ガソリン不足が避けられない現在の燃料環境では、ディーゼル車への移行は容易に進むだろう。しかもディーゼル車を運転するために新しく覚えることは何もない。キーを回してアクセルを踏み込むだけだ。

 数年でディーゼルハイブリッド車が登場すると、新しい時代の流れが本格化する。ディーゼル車によって石油エネルギーからの脱却が実現されるわけではないが、石油の使用量が減るし、ディーゼルは石油よりも精製の工程が少ない。ガソリンの価格のうち精製コストが原油価格と同程度に高い割合を占めるため、この違いは大きい。バイオディーゼルエンジンが登場すればさらに効果的だろう。

 現代のディーゼルエンジンは、倹約していることを感じることなく倹約を実現する手段である。運転していて楽しく、排ガス規制にも適合した、ごく近い将来に登場するであろう自動車の新しい形だ。最大の問題は、ディーゼル車の持つイメージの悪さである。

著者は「“ディーゼル+電気モーター”のディーゼルハイブリッド車が登場すれば、一気にディーゼルのイメージも回復だ」と考えているようだが、なかなかそう一気にイメージ回復とは行かないだろうと自分は考える。

  なぜならばディーゼルハイブリッド車が登場する可能性が極めて低いからである。

元来“内燃機関+電気モーター”で構成されるハイブリッド車は致命的な欠点を抱えているのである。それは
「一方が主力で動いている場合は、他方はデッドウェイト*1になりがちである」
というものである。
実際、現在のガソリンハイブリッド車において高速走行での燃費はさほど良くない。これは高速走行時には電気モーターはほとんど仕事をせずにエンジン中心で走る為に、電気モーター分の重さがデッドウェイト化するからである。
このため渋滞の激しい都市部*2を除くとハイブリッド車の恩恵を受けられる地域・ユーザーは意外に限られるのである。
つまり都市部以外の住民にとっては“最新式の通常ディーゼルエンジン”が最適解なのである。
では、都市部住民のためにディーゼルハイブリッド車が登場する可能性は?と言われるとこれもまた登場する可能性としては低いと考えられる。
なぜならば「ディーゼルエンジン自体がその構造上の理由から、ガソリンエンジンより重い為」である。
ディーゼルエンジン単体が重い為、逆に今度は都市部渋滞のゴー・ストップの激しいシチュエーションにおいて電気モーター中心で走る際に、ディーゼルエンジン自体の重さがデッドウェイト化するからである。
このことから考えると、都市部の住民にとっては“最新式の軽量なガソリンエンジン+電気モーター”のハイブリッド車が最適解なのである。

以上を踏まえた上で推論すると、ディーゼルと(ガソリン)ハイブリッドは新聞・雑誌やウェブサイトの環境特集でよく見られるような『二項対立』関係ではなく、それぞれの得意分野・地域を中心に棲み分けが計られると考えられる。

ディーゼルエンジンのイメージ回復については時間がかかるかもしれないが、確実に平均スピードが速くディーゼルエンジンが有利な郊外を中心にゆっくりと浸透していくであろう。また、原油価格が高騰しバイオ燃料に注目が集まりつつある為、本格的なバイオディーゼルエンジン*3の登場によって一気にイメージが回復することも考えられる。

何にせよ、これから10年〜15年の間に内燃機関が大きな曲がり角を迎えることは誰にも止められないのである

*1:分かりやすく言えばただの重り

*2:ゴー・ストップが激しく、ハイブリッド車が最もその真価を発揮できるシチュエーション

*3:バイオ燃料に最適化されたディーゼルエンジン